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第17話 グミダンジョン

last update Last Updated: 2025-03-23 20:37:50

 肩越しに振り返ってクマ吾郎を見る。彼女は押されながらも善戦していた。

 混乱のポーションの効果は出たか分からない。

 だが、俺にできるサポートはデバフポーションを投げるくらいだ。

 もう一本、混乱のポーションを投げつけた。

 命中。金色グミがぐらりと揺れる。効果が出ている!

「ピキーッ!」

 もう一匹の赤グミが飛びかかってきた。くそ、うっとうしい。

 横合いから体当たりをくらったせいで、よろけた。

 だが踏みとどまり、間を置かず赤グミに肉薄する。

「これでどうだ!」

「ピギャーッ!」

 まだ体勢が整っていなかった赤グミに、剣を思いっきり振り下ろす。

 ぷちゅ、と潰れた。

「クマ吾郎!」

 振り返れば、金色グミはもう混乱の影響から抜け出している。やはり回復が早い。

 けれど混乱のポーションを一本命中させれば、クマ吾郎が体勢を立て直して一撃を与える時間が稼げる。

 俺は最後の一本の混乱ポーションを握りしめた。

 これは効果的に使わなければ。

 剣と盾を構えて金色グミに近づいた。

 俺にクマ吾郎ほどの力はないが、牽制くらいならできる。ポーションも距離が近いほうが命中率が上がる。

 クマ吾郎の攻撃の合間を埋めるように剣を突き出す。

 未熟ながらも連携プレーだ。

 俺たち二人の攻撃に、金色グミは次第に苛立ったような様子を見せ始めた。

 動きがだんだん粗くなる。

 と、金色グミは今までにない大振りの構えを取った。体の一部が大きく伸びて、刃物のようになる。

 思うように動けなくて、賭けに出たようだ。

 だが――

「隙だらけなんだよっ!」

 俺の投げつけた混乱のポーションが、今まさに大技を繰り出そうとしていた金色グミに当たる。

「ピ、ピ、ピ……」

 金色グミの体がぐらぐらと揺れる。

 刃物の部分はむなしく地面に叩きつけられた。

「ガウッ!!」

 クマ吾郎がすかさず

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     俺は必死に衛兵から逃げる。「うわっ!」 衛兵の片方が矢を射掛けてきた。 あいつら容赦ない! とっさに左にステップを踏んでかわす。 軽業スキルとダンジョンで培った戦闘能力が役に立った。 矢は石畳の継ぎ目に突き刺さった。その威力にぞっとする。 路地に追い立てられ、狭い道を必死で走る。 やがて見えてきたのは行き止まり。 袋小路に追い込まれた。 衛兵たちの気配が近づいてくる。 と。 袋小路の手前、ゴミのかげにあったドアが急に開いて、俺は引っ張り込まれた。「しーっ。大人しくしてね」「バルト!」 俺を引き込んだのはバルトだった。 薄暗い室内で俺の口を押さえてくる。「犯罪者はいたか?」「いや、見失った」「近くにいるのは間違いない。よく探せ!」 壁一枚向こうで衛兵たちの声がする。 やがて声はだんだん遠ざかっていって聞こえなくなった。「ユウ、災難だったねえ」 バルトはニヤニヤ笑っている。 言葉とは裏腹にこうなるのが分かっていたかのような表情だ。 俺は心の底からため息をついた。「また地道なカルマ上げをすると思うと、気が遠くなるよ」「前と同じやり方じゃあ駄目だけどね」「え?」 バルトを見れば、彼は肩をすくめた。「だって税金の請求は二ヶ月ごとに来るんだよ? ユウは去年の夏が最後の納税なんだろ。次の税金を滞納すれば、脱税扱いになってカルマがまた下がる」 そうか、税金は二ヶ月毎に請求書が来るんだった。 締切まで間があるので、半年分ならまとめ払いができる。 ところが俺は半年前に納税したっきり。 次の締切は二ヶ月後になる。 たった二ヶ月でマイナス45のカルマを戻せるか……? いや無理だろ。以前はマイナス35から始まって、ゼロに戻すまで四ヶ月はかかった。

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第40話 犯罪者だ!再び

     わざわざ一緒に行くって? バルトの言葉に俺は首を傾げた。「え? 別にいいよ。税金納めるだけだし。犯罪者状態はもう解除されてるから、衛兵に襲われることもないし」 そう、先日。カルマがゼロまで戻ったのだ。俺はとうとう犯罪者ではなくなった。 バルトは笑顔のまま首を振る。「僕も王都に用事があるんだ。二人で行ったほうが道中も安心だろう。さあ、行くよ」「まあ、そういうことなら」 そうして俺とバルト、クマ吾郎はディソラムの町を出発した。 バルトはさすが盗賊ギルドの一級ギルド員。 短剣の二刀流を見事に使いこなして、弱い魔物程度なら瞬殺してくれる。 気配を消すのが上手いので、物陰からこっそりと近づいて背後からバッサリだ。 バックスタブってやつだな。「短剣もいいなあ。長剣に比べると威力が低いと思っていたが、そんなこともないのか」 俺が言うと、バルトは器用に短剣をくるくると回してみせた。「一撃の威力は長剣に劣るけど、短剣は連撃ができるからね。どっちを取るかは本人次第さ」 そんな話をしながら俺たちは強行軍で進んでいった。 王都パルティアに到着したのは、納税締切日の午後のことだった。 俺は税金の請求書を握りしめて税務署へと走る。 バルトは用事を済ませてくるからとどこかに行ってしまった。 クマ吾郎は城門のところで待機だ。 カルマが戻っているので、衛兵に追われることもない。 町行く人々も俺を特に見ることもなく、通り過ぎていく。 いやはや、あたり前のことだが助かるね。 たどり着いた税務署はすごい人混みだった。 周囲の人たちの声が聞こえてくる。「いつもにもましてすごい混みっぷりね」「今日が締切の税金が多いからね。駆け込みで納税する人がたくさん来ているんだろう」「余裕をもって納税すればいいのに。いい迷惑だ」

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第39話 修行の日々

    ・現在のユウのステータス。 名前:ユウ 種族:森の民 性別:男性 年齢:15歳 カルマ:-4 レベル:18 腕力:21 耐久:13 敏捷:19 器用:18 知恵:11 魔力:17 魅力:1 スキル 剣術:8.8 盾術:2.2 瞑想:4.5 投擲:6.3 木登り:4.1 隠密:5.4 鍵開け:3.3 罠感知:1.5 罠解体:1.2 軽業:2.8 釣り:1.7 魔道具:3.5 詠唱:4.9 読書:5.6 装備: 鉄の剣(剣術ボーナス付き) 蔓草の盾(瞑想ボーナス付き) 鱗の軽鎧(魔道具ボーナス付き) 丈夫な布のマント 鱗のブーツ(敏捷ボーナス付き) お財布の中身:金貨換算で約九枚(銀貨なら九十枚) ダンジョンで戦闘を繰り返したため戦闘系のスキル・ステータスがけっこう上がった。 戦闘スタイルは相変わらず、クマ吾郎を前衛にユウはサポートで立ち回っている。 ポーションの投擲もだいぶ精度が上がってきた。 遠くの標的でもそれなりに命中させられる。 魔法もなるべく使っているおかげで、魔力や詠唱スキルも上昇している。(当然、魔法書の解読もずっと続けている) 今ではマジックアローは九割以上の確率で成功するようになった。 鍵開け、罠感知、罠解体、軽業は盗賊ギルド限定のスキル。 鍵開けと罠二つは名前通り。 軽業は素早い身のこなしに対応するスキル。敵の攻撃の回避の他、高いところに飛び上がったり飛び降りたり、空中でバク転をしたりといった幅広い動きに関連している。 ダンジョンで拾った装備品が徐々に増えている。 今のユウの実力は、そろそろ中級冒険者に届きそう……といったところ。

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